9thコンサート演奏曲紹介⑦「内なる遠さ」より『合掌ーさる』
(前回記事はこちら)
「内なる遠さ」の楽曲紹介、3曲目は・・・
『合掌ーさる』
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逃げまどい 逃げ遅れ
逃げ場をなくした子連れのさるは
銃口に向かって 手を合わせ
必死に手をすり合わせ
泣きながら拝むとか
見逃してくれ と拝む様
そっくり人間のものだとか
さすが さるうちの名人も
この時だけは引き金を引けず
はよ逃げろと眼を閉じて
思わず泣いてしまうとか
里もいやだが
もう山もいやだ
さるうちは因果な仕事だ と
語ってくれた老人の名は忘れたが
その合掌ばかりは
今も鮮やかに思い出す
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ここまでご紹介した2曲から一転して、非常に具体的で衝撃的な情景を描いています。猿を捕獲する"さるうち"の前に追い詰められ、銃口に向かって必死に手を合わせ、拝み懇願する子連れの猿の姿です。その姿は「そっくり人間のものだとか」と表現され、極限状態での命乞いが、動物と人間の区別を超えた普遍的な悲劇として描かれています。そして、それを見たさるうちの名人さえもが銃を引けず、思わず泣いてしまうという描写は、『因果』や『慈悲』といった、生命の倫理に関わる深い問いかけを聴く者に突きつけます。
楽曲も前2曲から大きく変わり、絶望的な状況下での祈りを、重厚かつ劇的に表現しています。ロ短調(b-moll)の深い響きはそのままに、感情の起伏が激しくなり、追い詰められた猿の悲痛な叫びが、合唱の緊張感あふれるハーモニーで表現されます。ピアノは、緊迫したリズムを刻み、情景の切迫感を高めます。最後の「その合掌ばかりは 今も鮮やかに思い出す」という言葉が歌われる部分では、沈黙と静寂の中に消え入るように締め括られ、人間の心に残る強い印象、すなわち生命への畏敬の念を刻み込みます。この心揺さぶられるドラマを、ぜひ会場で体感してみてください。
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